株式会社内部監査

「人」に依存するウエイトが高い小規模企業体、組織体

 小規模な企業体、組織体では、業務プロセスの正確性を維持する上で「人」に依存するウエイトが高くなります。特に、転職などで退職が発生すると、仮に当該企業に所属はあったとしても有給消化のための休暇に入ったり、ましてすぐに次の企業に移ったりすると、後任者の採用が決まるまでに対面での引継ぎができないこともあります。
 担当する業務については、ジョブ型採用が一般的になった現在では比較的スムーズに後任者が業務に入ることが可能だと思われますが、管理職などのマネージャーが退職した場合は、業務のほかに「管理」業務が加わりますので、この「管理」業務(これを「内部管理」といいます。)の引継ぎがうまくできていないと、最悪の場合は、重要な事項がそのままで放置されたり、必要な対応が手遅れになるという状況が発生します。よい人材であればうまく管理業務が回っていても、感度のよくない人材が管理者となった場合は、内部管理が停滞したり、リスクが顕在化して組織体の経営に取り返しのつかないダメージを及ぼしてしまうこともあります。
 内部監査の現場では、このように業務引継ぎがうまく行われていないために、リスクへの対応が遅れている企業体、組織体が散見されます。特に、内部監査結果の引継ぎがうまくできていないケースが多くみられますので、そのような場合に重要となる「業務引継ぎ書」についてご説明したいと思います。

業務引継ぎ書の記載事項

 通常、退職や異動が決まると後任者と「業務引継ぎ」を行います。その際、業務の実務の説明を書類や現場での説明などで行いますが、引継ぎを漏れなく行うためには最低でもレジメなどを使って引継ぎ事項をチェックすると思います。その際に作成していただきたいツールが「業務引継ぎ書」です。
 業務引継ぎ書はWordでもExcelでもPowerPointでも構いませんが、最低でも次の項目を記載し、参照すべき資料の保存場所、キャビネットの場所などを記載します。
1 担当業務の引継ぎ事項等
(1)マニュアルや手順書などにより、説明を行い、次に実際にその業務について、作業内容を行うことで理解を深めてもらいます。対面で引継ぎができない場合は、業務の流れ(業務フローといいます。)に沿って、できるだけ詳細に手順を記載します。業務フローごとに相談すべきメンバーの名前なども記載します。
(2)業務に関係するファイルの保存場所(共有フォルダー、キャビネットの名称等)
*記載項目
 業務⇒関係する規程、マニュアル、手順書⇒業務内容と業務フロー⇒関係者名⇒ファイリング場所 など

2 管理業務の引継ぎ事項等
 管理者は業務のほかに以下の管理業務の引継ぎが特に重要です。
(1)人事考課等人事管理関係事項
 書類等に基づいて説明し、ファイル場所やパスワードについても説明します。
(2)経営計画・目標管理関係事項
 現状と今後の課題についてはもれなく説明します。
(3)業務管理関係事項
 管理事項を「分掌業務」(分掌業務規程等に記載されています。)ごとに説明します。
a 管理業務に関係する規程等の「ル――ル」の名称
b 管理についての役割と責任(通常は規程等に定められていますし、仮に明記されていなければ現在行っている管理内容・・・何について管理しているか・・・を説明します。)
c 報告事項・・・何を、いつ、誰に、どのようなツールで、報告するか・・・について説明します。
(4)内部監査指摘、提言を受けた事項
 過去の内部監査ごとに「結果通知書、「監査調書」、「改善計画書」などについて説明します。内部管理においては内部監査への対応が特に重要です。

3 管理業務に関するペンディング事項の引継ぎ
 前任者が実施しなければならなかった事項で、引継ぎ時までに実施できなかったり、時期が未到来の重要な事案、特に自分しかわからない情報などについて項目分けをして説明します。 

 小規模企業体、組織体では「人」に依存するウエイトが高いので、このような「業務引継ぎ書」を標準書式として整備し、事前に上司が記載事項や記載内容に漏れがないどうかを点検しておくことが重要です。